現 象球粒物質>ツングースカ物体が溶解してできたものでしょうか

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  球粒物質                                              



1.土壌中の球粒物質
1958年から再開されたツングースカ異変地域の調査では、それまでの大きな破片の発見を目指すことよりも、微小残留物の捜索に方針が変更されました。つ まりツングースカ物体が大気中で白熱し、融解して小さな球体になりゆっくり下降してきた流星塵を発見して分析すれば、その成分から正体を推測できるのでは ないかと考えられました。
調査されたのは10000km2以上の地域で、爆心地から200km以上の地点も含まれていました。土壌中から磁性を持つ高いニッ ケル含有で裏付けられる宇宙起源と思われる球粒物質が多く発見されたのは、爆心地から北西に約70km離れた地点でした。これは異変時の現地は南東の風、 風速2〜5m/sによるものでしょう。
フロレンスキー(K.P.Florensky)は球粒物質の大きさと、降下時間の関係から爆心地から50km離れた場所に球粒物質が集中するとして、発見 されたのはツングースカ物体起源であろうと考えました。(*1)
しかし発見された全体の球粒物質は非常に少なく、さらに宇宙起源ということについても疑問視されるようになりました。
また土壌中からのツングースカ物質捜索には制限がありました。つまり土の層の正確な成層年代が判らないのです。
ツングースカ地域の土の成層は非常に遅く3〜5cmの厚さになるには約80〜100年間かかり、均一性も明白では
ありません。土壌中から宇宙起源の球粒物質が発見されたとしてもツングースカ物体によるものかどうかは判らない
のです。
*1 PRELIMINARY RESULTS FROM THE 1961 COMBINED TUNGUSKA METEORITE EXPEDITION
     Flornskiy.K.P    Meteorites Vol.23  1963

2.ミズゴケ泥炭層の球粒物質
ツングースカ物体の微粒子の捜索は1968年から第2段階へと移り、ミズゴケが注目されるようになりました。吸着性の高いミズゴケは成層をなして長い時間 大気中のエーロゾルを保持する能力があると考えられたのです。事実、調査された全てのミズゴケ質泥炭層は150〜200年間のエーロゾル沈殿物の「年代 記」として役立つことが明らかになりました。泥炭層からは宇宙起源と考えられる珪塩酸と磁性体の微小粒子が発見されました。異変時の1908年の珪塩酸粒 子の数はその前後よりも多く、その地理的分布はフロレンスキーにより示された土壌中の球粒物質のパターンに似ていました。異変時の珪塩酸の粒子からはナト リウム、アルミニウム、亜鉛、銀を高濃度で含み、気泡には二酸化炭素を多く含んでいました。
しかし、これがどのようにツングースカ異変現象と結びついているかは漠然としています。珪塩酸微粒子がツングースカ彗星物質により高温化で形成されたと考 えられる一方、泥炭の燃焼によっても同様な物質が形成されることが判っているからです。爆心地付近の珪塩酸微粒子の豊富な地域分布は、異変による泥炭火災 の地域分布と似ていることも判っています。

1970年代になるとミズゴケ泥炭層の微量分析や同位体の分析が行われるようになりました。その結果、爆心地近くのいくつかの地点からナトリウム、アルミ ニウム、シリコン、鉄、ニッケル、カルシウム、臭素、ルビジウム、モリブデン、
スズ、バリウム、水銀、鉛、金が異変時に増加していることが判りました。この増加は泥
炭への焼けた木からの灰、地球の塵および地域特有の地球化学的な背景によっては説明できないそうで す。カレェスニコフ(V.I. Kolesnikov)によると異変期間の泥炭層はツングースカ物質を含み、多くの低融解および揮発性元素をみ、高い割合でアルカリ金属、銀、金、モリブ デンを含んでいて、これは石質隕石とは異なり、鉄質隕石とは大きく異なりC1タイプの炭素質球粒隕石にちかいというこ とです。(*2)
宇宙物質の指標ともいえるイリジウムも泥炭層からわずかですが検出されていて、異変期間には緩やかな増加傾向にあります。 同期間の南極やグリーンランド の氷からはイリジウムの増加は確認されていません。           

 *2 The Tunguska Meteorite problem today  N.V.Vasilyev  Planet.Space Sci., Vol.46 No.2/3 (1998)                                                   

 Kolesnikov が採集した泥炭(1992.8.4

   
3.樹幹中の球粒物質
ツングースカ物体の微粒子捜索第3段階は、爆心地付近から完全な状態を維持した樹脂を研究するイタリア・ボローニャ大学のロンゴ(G. Longo)等によって引き継がれました。彼らによって開発された方法で樹脂に含まれるエーロゾル粒子の数量、元素構成の データを高精度で得られることができました。1991年の調査で採集した数本の樹幹円盤に含まれる樹脂から粒子数 が1908年にピークをもつことが発見されました。1908年の樹脂からは、主に鉄、カルシウム、アルミニウム、シ リコン、銅、亜鉛、クロム、バリウム、チタン、ニッケル、炭素、酸素を含んでいました。
この元素構成は Kolesnikov等により発見された異変期間の泥炭層による元素構成のリストと明白な類似を示します。(*3)  ところがこの元素構成は火山灰と類似しているということなのです。ツングースカ異変の前年(1907年)末にカムチャッカのKsoudach火 山が噴火していてこの問題を更に複雑にしています。Ksoudach火山周辺での火山灰の調査結果が出なければ宇宙起源かど うかは判りません。 

*3 Search for microremnants of the Tunguska cosmic body
        Longo.G, Serra.R, Cecchini.S and Galli.M    Planetary and Space Science Vol 42(2) (1994)

4.新潟県 立新井高校・地学部が検出した球粒物体
1992年のITE3に参加した折に前年イタリアの調査隊が切り倒した樹齢約130年のゴダイトウヒの幹を厚さ7cmほど切って持ち帰りました。友人から きれいに5枚にスライスしてもらい3人が夫々1枚づつ保管することにし、1枚は年輪の専門家でクラスノヤルスクまで偶然一緒だった名古屋大学の竹中千里さ んから分析してもらうことにしました。
残りの1枚は新潟県立新井高等学校地学部からツングースカ物体起源の流星塵を検出してもらうことにしました。
樹幹円盤を年代ごとに10個に分けて捜した結果1908年以前の部分から多くの球粒物質が見つかりました。(*4)
これが何を意味するのか、見つかった球粒物質が宇宙起源なのか、ツングースカ物体起源なのか興味あるのです。
地学部の指導の先生が退職されその後研究が進んでいないのが残念です。

新井高校

球粒物体の 電子顕微鏡写真(提供:長谷川 正氏)

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