更新:プラズマ塊説 2012.03.23
ツ ングースカ異変事件は宇宙からの物体が大気圏に突入したことによるという説がもっとも有力です。
しかし物体を特定できる証拠物質は発見されていなく、様々な異変現象を伴なっていることから、小惑星・彗星説以外にもいろんな説が提案されています。なかにはツングースカ異変の一側面を説明することに成功しているように主張していますが、総合的な説明には無理があります。また、混乱した目撃報告の都合の良いものだけを取り上げて自説に都合の良い解釈をしている場合もあります。
このような珍説・奇説は提案者も真面目に信じているかどうか疑問な点もあります。
なかには真面目に提案した人もあるかと思いますが残念ながら客観性は無いものになっています。また他の面で立派な業績を上げている本職の物理学者が提案したものは冗談で知的なゲームとしてではないかと思います。
珍説・奇説をこのWebで取り上げるべきか迷いましたが、海外ではこの事件がそれだけ多くの人の注目を集めているということですし、宇宙船事故説信奉者団体から本格的な科学調査隊に変わり40年以上たった今でも多くの業績を上げているロシアの自主総合探検隊(KSE)の例もあることですから、トンデモ説からでも興味を持ってもらえればいいと思い紹介します。
宗教的な説(天使の降臨説、火炎龍の天空通過説、ソドムとゴモラの再現説)や私の頭では理解不能な説(タイムマシン説、エーテル説、人工ダイヤモンド製造
工場の爆発説etc..)は割愛します。理解できるようになったら載せるかもしれません。
1.地球内部原因説
2.大気圏
内原因説
3.反物質説
4.
ミニ・ブラックホール説
5.プラズマ塊説
6.ニコラ・テ
スラ説
7.宇宙人説
8.電磁場説
9.
ミ ラーマター説
10.
白鳥座61番星からのレーザー説
11.巨大球電説
1.
地球内部原因説
ツ
ングースカ異変事件は宇宙からの物体が大気圏に突入したことではなく、火山の爆発や地震によるものという説です。確かに地震は発生しましたが、それは結果
であって原因ではありません。爆心地は火山岩の一種玄武岩でできた直径約7kmの盆地内にありますが。玄武岩は2億5000万年以上前にできたもので現在
の火山活動
とはまったく関係の無いことが判っています。また中央シベリアは地殻がもっとも安定している地域のひとつで事実上地震は起こらないそうです。
しかし、いまでも地球内部説が提案されています。そのなかで有名なのはロシアのAndrei Yu
Ol’khovatovが1990年に発表したもので彼は、geometeor(地球流星?)と呼ぶ現象が起きたためだと主張しています。ツングースカの
爆心地は古代のクレータの真ん中にあり、断層構造や円形構造があり、その構造も中心で交差しているので地殻が不安定であると主張しています。そして爆発事
件の前にこの地域で地震活動が増加した証拠があるそうです(?…見ていません、不明です)。6月30日は気象観測所によると大きな気圧の変化があったとい
います。そのような地球物理学と気象学てき不安定の組み合わせの結果、大気中で光る活動があり、それは落下する流星のように見えた。更にほぼ同時刻に浅い
群発地震が発生し、うなり音(雷鳴なような音が短時間あり、それは地震の震源地からと考えられている)があり、その時クレータの裂け目で大きな爆発があり
森林を倒壊させた、といいます。
Ol’khovatovは発光現象の仕組みは説明ができないといっています。地震のときに観
測されることのある発光現象のことだと思いますが、それが流星のように見えるとは思われません。
ツングースカ異変が通常の隕石落下現象に伴なわないとされる夜光雲、異常な大気光、磁気異常、前ぶれの地震、地鳴りがうまく説明できるとしています。しか
しツングースカ異変は近代の人類が初めて遭遇した大規模の宇宙物体との衝突事件ですから、知られている隕石落下現象とは異なっていても不思議ではありませ
ん。
また、事件の前の地震や地鳴りが本当にあったか客観性に欠けています。
2.
大気圏内原因説
お
もに雷や竜巻の気象現象と、メタン・ガスや粉塵の爆発をツングースカ爆発という説です。当日の現地は快晴ということと、大規模な森林倒壊は説明できません
から雷説はないでしょう。
竜巻説は森林倒壊の報告がされたと同時に隕石落下の懐疑論者から出たものですが、飛行する大火球や閃光は説明できません。
ツングースカ異変地域は沼が多くあります。沼地から有機物の腐敗によって天然ガスの主成分メタンが発生します。地下に蓄えられたメタンが一気に地上に放出し点火・爆発したというものです。しかし、TNT火薬10メガトンの爆発に
相当するメタンの量はどのくらいなのでしょう? 計算はしませんが無理なような気がします。
粉塵爆発は空気中に浮遊している粒状物が高密度になるとちょっとした火花から大爆発を起こしますが、炭鉱の中の細かい石炭の粉、製粉所の小麦粉や澱粉など
の爆発が知られています。ツングースカではこのような粉塵があったのでしょうか? 答えは蚊やブヨの大群だそうです……。夏に現地を訪問すると蚊、ブヨ、
アブの大群に遭遇します。この大群(約5立方km)が大空に舞い上がり、雲のようになっていて、その中に大流星が飛び込んで点火した結果、大爆発が起こっ
たというもので す。
個人的にはいちばん好きな(信じてはいませんが!)説ですが、やはりどこかおかしく、提案した人から数式を用いてじっくり説明してもらえたら嬉しいです
ね。たぶん現地で蚊やブヨの大群に襲われて辟易した人が提案したのでしょう、その気持ちはよく理解できます。
3. 反物質説
コー
ワン(C.Cowan)等が提案した説が有名ですが、反物質説は以前からありました。しかし論文の共同執筆者の一人がノーベル賞受賞者のリビー(W.F.
Libby)だったり、本職の科学者が理論的に証明した(?)、と大きな話題にな
りました。(*1) 反物質でできた
隕石がシベリアの上空に突入したというものです。
反物質でできた隕石のアイデアはロシアのVladimir Rojansky
により1940年に提案されました。彼は「そのような隕石は落下して海面レベルに達する前に完全に消滅するだろう」と述べました。その年の9月15日の
ニューヨーク・タイムズは「帆船RockitUがロング・アイランド近くを航行中にキーキーという音が通過した後、100ヤード離れた水面で爆発があっ
た」と伝えました。調査の結果は隕石でも砲弾でもなく、その時の上空には飛行機はなく、船舶もなかった。そのため天文学者の中には反物質の隕石の落下が原
因であったかもしれないと推測しました。
1941年アメリカのLa
Paz Linkoln はツングースカ物体は反物質という説を発表しました。物質を構成している素粒子に反対の性質をもつものがあるというのは確認されたことです。特に正電荷をもつ陽電子(反電
子)の存在予言と発見はよく知られた出来事です。反電子があれば反陽子、反中性子もあるはずで、どこかには反物質の宇宙が存在するかもしれません。普通の
物質と、反物質が衝突すると膨大なエ
ネルギーを放出して消滅しますから、破片が見つからず大爆発というツングースカ異変を説明するのに都合良いと考えたのでしょう。
Cowanや
Libbyはツングースカ爆発は通常の化学反応ではないが、核分裂・核融合の爆発の可能性は目撃情報からは合わず、反物質説に有利であるとの論文を発表し
ました。彼らの計算では35メガトンの核爆弾のように作用し、放射性の炭素14を多量に生み出すという。反物質仮説は木の中に多量の炭素14の発見により
可能性が出てきました。彼らはアメリカ国内のベイマツを用いてツングースカ異変の前後19年の年輪を数多く調査した結果、炭素14のピークは1909年
(ツングースカ異変の1年後)にありました。しかし、その量は彼らが予想したよりもはるかに少ない量でした。彼らの結論は「不確実性はあるがデーターは肯
定の結果をもたらす」。
私が1992年に持ち帰った、爆心地付近で生き残ったゴダイトウヒの樹幹円盤を名古屋大学農学部の竹中教授から分析し
てもらいました。結果は1908〜1910年の炭素14濃度はほぼ天然レベルで、核爆発の推測は裏付けられないというものでした。
アメリカ・カトリック大学のHall Cranmell
はツングースカ物体が反物質であるなら、普通のアルミニウムは放射性のアルミニウム26に変換された、との説を発表しました。そして現地の土壌や岩石中の
アルミニウム26の含有量が爆発の中心から距離の係数として測定されるだろうと述べました。しかしこのような測定はまだ行われていないようです。
同位体の専門家カリェスニコフ(E.M.Kalesnikov)は泥炭層から検出した微粒子の同位元素の分析をして、
全ての核反応の可能性を否定していま
す。
*1
POSSIBLE ANTI-MATTER
CONTENT OF THE TUNGUSKA METEOR OF 1908
Cowan.C, Atluri.C.R and Libby.W.F NATURE Vol.205 May 29
1965
4.
ミニ・ブラックホール説
テ
キサス大学のジャクソン(A.A.Jackson)が1973年に発表したものです。(*1) 発表誌がNATUREだったため多くの人の目にとまり、本職の物理学者が理論的(?)に裏付けたとということで日本の天文雑誌にも紹介されたほどです。ツングースカ物体の破片が見つからないこと、大きな爆発、衝
撃波による森林倒壊のパターン、青いチユープ状の飛行物体という目撃報告から推測したのではないかと思います(遊びとして)。
彼によると直径100万分の1mm、重さが1020〜1022g(100兆〜1京トン)のミニ・ブラックホールが宇宙からシベリアの大地に突入し、地球の反対側に突き抜けたというものです。理論はよく判りませんが大気に突入時にはツングースカ異変の爆発エネルギー1022〜1024erg
に相当する爆発が起きるそうです。ツングースカ爆発では中心の温度が1.5万Kに達したといわれていますが、この説では10万〜100万Kになるそうなので温度だけなら他の説に比べやや有利ではないかと思われます。
ブラックホールは理論的に予言され、現在では間接的に観測されていますがこのようなミニ・ブラックホールが存在するのかは確認されていないでしょう。仮に存在してツングースカ地域に突入して地球を貫通したら何らかの跡が残っているのではないでしょうか。また突き抜けた地域は北大西洋(40°〜50°N、30°〜40°W)ということで目撃されにくい場所とはいえ何らかの異変現象が報告されていてもいい筈なのですがありません。またロンドンやケンブリッジの微小気圧変化の記録にも大西洋の異変は見当たらないとのことです。(*2)
森林倒壊のパターンは、ミニ・ブラックホールでなく小惑星でも弾道衝撃波が発生しますから証拠にはなりません。またツングースカ物体の飛行中の形状として、青いチューブ状というのも確実な証拠はありません。
*1
Was the Tunguska Event due to a Black Hole?
Jackson.A.A NATURE Vol.245 SEPTEMBER 14 1973
*2 Tunguska event was not caused by a black hole
Beasley
W H, Tinsley B A NATURE vol.250
5. プラズマ塊説
ド
ミトリエフ(A.N.Dmitriyev)とジュラヴリーフ(V.K.Zhuravlyov)が提案したものです。これも反物質説やミニ・ブラックホール説と同様に本職の科学者が考えたものです。
ツングースカ爆発後の局所的な地磁気嵐や、ツングースカ物体の飛行経路下の土壌や岩石に顕著な磁気異常が発見されたことを説明するために作った説です。確かに今のところこのふたつの異常をうまく説明できる仮説は多くありません。
太陽のプラズマがなんらかの拍子に紡錘型の「磁気ボンベ」となって飛び出し漂流し、地球の磁気圏に捕らえられ、磁場の傾斜方向(磁気の北極または南極の方向)に進むのでツングースカにやって来たというものです。それは外部の磁気圏で囲まれた巨大で安定であ
るので寿命が長く、ツングースカのタイガ上でプラズマの電子と陽子は再結合し、核爆発と同じ作用で激しい放射線を発生させることになるそうです。発生した
放射線による電離層の電流が局所的な地磁気に影響を与えることになります。
「磁気ボンベ」のプラズマ量は約5時間電離層に電流を流すために十分でなければなりませんが、そのプラズマを閉じ込める磁界の強さは彼等の計算によると16テスラ
という途方もない値でした。そのような磁界は地磁気の50万倍以上になります。地球上の研究所で超伝導コイルを使って発生されることは出来ても、太陽上で
は決して観測されたことがない強度です。
彼等はヤケッパチになったのか、或いは冗談をエスカレートさせたのか自然のプラズマ塊を諦め、「プラズマ磁気エンジン」の宇宙船説も提案しました。
*1 1908 Tunguska Event: A Type of Solar-Terrestrial Connection
Dmitriyev.A.N and Zhuravlyov.V.K
Institute of Geology and Geophysics (1984)
6.
ニコラ・テスラ説
ニ コラ・テスラ(Nikola
Tesla)はセルビア生まれで、アメリカのエジソン研究所でも活躍した電気工学者です。交流システムの実用化や高周波の研究で有名で、テスラは磁束密度
の単位(T)にもなっていて、ノーベル賞候補にもなりました。彼は「殺人光線」とよばれた指向性エネルギー兵器を開発したとされています。また無線による
地球規模の電気エネルギーの送電実験をしていました。
1908年6月30日、一説によると北極遠征していたPearyを援助するため北極地方の気象を変える目的でアメリカのロング・アイランドから北極点に向
けてエネルギーを放射しましたが、設定ミスから北極を越え、ロング・アイランド−北極点の大円ラインにあるツングースカに達してそこで大爆発を起こしたと
いうものです。
異常な薄明や銀色の夜光雲の発生、磁気嵐は電気エネルギーに原因するテスラ説で説明できると支持者は説明しますが、それだけのエネルギー源(当然地元の発
電所から供給される)がテスラに操作できるものでしょうか。
テスラの発明した有名なテスラ・コイルによれば可能ということでしょうが、ちょっと信じられません。
この説の出所はアメリカの作家Oliver Nichelson
だと言われていますが、1994年にTV番組のため更に脚色された結果だということです。テスラは1928年のツングースカの新聞記事(多分前年のクー
リックの遠征の記事)を読むまで、ツングースカ事件のことを知らなかったそうです。またPearyの遠征記録にもテスラと結びつけるような記述は無いそう
です。
日本のSF界では平賀源内、安倍清明をスーパースター扱いする場合があります。平賀源内がタイム・マシンを製作したと
いうものもありますが、その類のよう
な気がします。
7. 宇宙人説
ツ
ングースカ異変事件のトンデモ説の定番とも言える宇宙船爆発説は多くのSF作家によって小説に取り入れられています。日本では光瀬龍氏の「たそがれに還
る」が有名です。私も20代の頃は光瀬SFに心酔していましたのでこの小説によりツングースカへの興味がいっそう募りました。
もちろんこの説の始まりはロシアのSF作家カザンツェフ(A.P.Kazantsev)の短編小説「爆発」(1946年)です。
この辺の事情を篠田皎氏は詳しく調べられて発表しています。(*1)
それ以後手を易え品を易えていろんな宇宙人の宇宙船が登場して、何時しかSF小説が多くの科学者に認められた事実のように流布されたりしています。SFとして楽しむのならいいのですが本気で宇宙船説を信じるようになると問題です。不思議なことを科学的に解明しようとせずに、すべて文明の進んだ宇宙人のやったことにしてしまえばいいのですから。亜流として日本の宇宙船が帰還に失敗したという、本気?といいたくなる説を唱えている人達もいるそうです。(この人たちと連絡が取りたくて手紙を出したり、電話をしたりしましたが無視されました)
宇
宙船をツングースカ物体と結び付けたのは、カザンツェフが第二次世界大戦後ロシアが広島に派遣した調査団に参加しており、原爆で破壊された広島の焦土が
ツングースカ異変地域の様子にそっくりだったというのです。
当然1908年には原子爆弾も原子力発電所もありませんから、原子力動力の宇宙船の爆発事故にしたいのです。
1945年の広島の様子と、ツングースカの様子が似ているか今となってははっきりしませんが、私には写真で見る限りそれほど似ているとは思えません。それにカザンツェフが本当に広島を訪れていたのかもはっきりしません。
爆発後にキノコ雲が見えたとか、現地のエベンキの人やトナカイが原因不明の病気で死んだという噂を放射能に結び付けたり、ツングースカ物体が飛行中に進行
方向と速度を大きく変えたという一部の目撃報告を鵜呑みにして宇宙船事故説はある種の人たちには定説になっているようです。ある種の人たちにとっての味方
は宇宙船論者の物理学者ゾトロフ(A.V.Zolotov)です。彼は1959年から何度か現地調査を行い核爆発の証拠を発見したというのですが、調査方
法に問題があるため真面目に研究しようとする大多数の人には彼のデータはまったく信じられていません。(*2)
*1
ツングスカ異変に関するトン デモ理論の成立状況
も篠田皎 ツングースカ異変研究会で発表(2001.12.24) 天界 Vol.83 No.927
(2002.08)
*2 PRELIMINARY RESULTS FROM THE 1961 COMBINED TUNGUSKA METEORITE
EXPEDITIO Flornskiy.K.P
Meteorites Vol.23 1963
8.電磁場説
サリニコフ(V.N.Salnikov)等によって提案さ
れたものですが、地球内部原因説のひとつといえるかもしれません。こ
れも私にはほとんど解らない説のひとつです。
たぶん強力な電磁場がなにかの理由でツングースカ地域に発生した結果という
のだろうと思います。その根拠を森林の倒壊を強力な電磁場によるものとしています。電磁場は左巻きの渦巻き構造となって、倒木のパターンにもそれが表れて
いると主張しています。また強力な電磁場の結果発光現象が現れ、これが火球として各地で目撃されましたが、低気圧に吹き込む風のように目撃場所により火球
の飛行方向が異なるため、目撃者の火球の飛行方向がいろいろあるという結果となったのだそうです。
強い渦巻状の電磁場が発生したのなら異変地域の岩石・鉱物・土壌や植物にもその影響が残っていてもいい筈なのですが、そのような調査結果は今のところない
と思います。地磁気の変動現象は発生しましたが、
爆発後6分後から起きています。
*1
ELECTROMAGNETIC SYSTEMS OF LITHJSPHERE AND
MECHANISM
OF TUNGUSKA PHENOMENON FORMATION
Salnikov.V.N
& Loukianova.E.V
9. ミラーマター説
オーストラリアのロバート・フットが2002年頃に提唱し
たものです(*1)。ミラーマター
(鏡像物質)はノーベル賞受賞者のT.D.リー(李政道)とC.N.ヤン(楊振寧)が1956年の論文で示唆したことに始まるとされています。
存在が確認されたのではありませんが、宇宙に存在するという見えないダーク
マター(暗黒物質)の候補と考えている科学者もいます。反物質と違い、通常の物質とミラーマターが相互作用するのは自然界の4つの基本的な力のうち重力だけなので接触しても互いにすり抜けるだけのはずなのですが……いろいろな仮説のもとに光子−ミラー光子遷移力があるとすればミラー原子核は通常物質の原子核と相互作用することになるのだそうです。そうなるとミラー物質でできた隕石が大気に突入したとすれば目に見えるようになり、大気中で
大爆発も起きるというのです。
ロバート・フットはツングースカ物質の破片が見つかっていないことを根拠に、ツングースカ物質をミラーマターにしたのです。しかし肉眼で見える程度のツングースカ物質の破片が無いとは言えな
いのです。本格的な破片の捜索は事件から50年近く経った第二次世界大戦後からです。破壊された森林は回復し破片が有ったとしても捜索は容易ではありませ
ん。また、破片がまったく見つかっていないからミラーマターと言っておきながら、一般向けの著作「「見えない星を」を追え!」(*2)(ツングースカの記
述にかなり誤りがありますが)には、……多数のミラーマターの小片が、いまだにその衝突地点の地中に留まっている……というのはちょっとおかしい気がしま
す。
またミラーマターの存在も確実とはいえず、結局この説もツングースカ異変の一部分を説明できたように思っているでしょうが、ツングースカ異変の全貌を説明
するには無理があります。
*1
Does mrror matter exist ?
Robert Foot July 2002
*2 「見えない星」を追え!
Robert Foot (澤田哲生 訳) PHP研究所 2003.10
10.
白鳥座61番星からのレーザー説
ツングースカ異変事件は宇宙からレーザーを照射されたため
という説です。
そのレーザーを操作したのは白鳥座61番星、通常61Cygと呼ばれている恒星の周囲を公転する惑星の生物だそうです。この説はG.AltovaとV.
Zhuravlevoiによって1965年のZvezda誌に投稿されました。
61Cygは18世紀の終わり頃にピアッツィが異常に大きい固有運動を発見して有名になりました。1830年には二重星ということが判り、さらに第3の星
があることが判りこれは61CygCと呼ばれることになりました。61CygCは木星の8倍の質量をもつと見られ恒星か惑星か意見が分かれていますが(ス
ミマセン最近の事情は判りません)ここでは彼らの主張どおり生命体が住む惑星としておきます。
なぜ61Cygの惑星からと彼らは考えたのでしょう。ツングースカに照射されたレーザーはその惑星に住む生物からの応答信号というのです。応答信号という
からには地球から61Cygへ向けて信号を送ったことがあったでしょうか?彼
らは1883年に大噴火を起こしたクラカタウ火山の火山灰が高く舞い上がり、電離層を乱し電磁波を発生させた。その電磁波は大気圏外遠くまで達するほど強
かった。この電磁波を意味のある挨拶としての信号として11年後に受取った61Cygの科学者は、礼儀正しく返礼の通信を送ることにした。
61Cygまでの距離は11.4光年ですから往復では22.8光年。1883年の噴火による電磁波が61Cygに届いてからの科学者が準
備をするための時間が2年位(地球時間です!)としたら61CygCからの大出力レーザーがツングースカに届くのは1908年!まさにツングースカ事件!
しかし科学者達は地球の距離を誤り、その
ため強力なレーザービームはツングースカのタイガを撃ち火をつけた。この「特別強い」61Cygからの通信は地元のエベンキ人に
とってギリシャ語そのもので、彼らは星からの挨拶状を読むのに必要な技術を持っていなかった……
私は中学生のときに少年サンデーでこの説の記事を読みました。そのときですら、そんな馬鹿な、と思いました。
11.巨大な球電説
雷放電が激しい時に、直径数10cmくらいの発光する火球が出現し、数秒から数
分後に消滅する自然現象です。この説はアメリカの科学作家Jack Stoneley
などから発表されたようです。彼によるとツングースカ事件による森林荒廃を起こすだけのエネルギーをもつ球電は直径1km程になるといいます。これは初期
の研究者が、ツングースカ物体の目撃者の話から火の玉がさしわたし約1kmと計算していたことから、ツングースカ物体が巨大な球電に似ていると考えたよう
です。
球電がはたして1kmの大きさになるのでしょうか。2002年英国王立協会はPhilosophical Transactions
誌の中でオーストラリアのクイーンズランドで撮影されたという直径約100mの球電を載せています。その球電は地面に降りた後約5分という驚くほど長く持
ちこたえました。
一般的な球電の理論としてはプラズマ理論があります。電光のようにプラズマが球体になったり、電子が熱いガス状になって帯電しているというものです。支持
されている別の説はニュージーランドの科学者John Abrahamson と James Dinniss
によるもので、稲妻が地面を撃つと土中のシリカ(SiO2)を純粋なシリコン蒸気に変える。熱い蒸気が
冷えるとシリコン・エーロゾルは帯電により流動的な球形にまとまる。シリコンに蓄えられている化学エネルギーは熱と光としてゆっくり放出される。その球体
は、その寿命の後半に見えるようになるので、落雷の後に空気から出現するように見えるといいます。
球電のなかに電荷を帯びた塵が多量にあれば強く結合し、巨大サイズに成長することがあるのではないかといわれています。直径1km
の球電が発生する可能性があったとしても、ツングースカ事件のあった場所の当日の天気は雷が発生するような気象ではなく関連は非常に薄いということになり
ます。とは言え球電を一度は見てみたいものです。
Topに 戻る
|