現 象>爆発のメカニズム

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  爆発のメカニズム                                              


 


事件の現象をできるだけ広範囲に記してきましたが、肝心のこと、「ではそれでツングースカ物体は?」ということになると、やはりどうやって爆発したのかが分からないと正体も分からないでしょう。この問題も解決していないのですが、歴史的に見て次のようになるのでしょうか。
(1).
彗星の化学的・熱的の爆発説
(2).彗星の化学的爆発の復活(蒸気爆発)
(3).鉄隕石帯電説
(4).石質隕石説の復活
(5).彗星説の逆襲

(1).彗星の化学的・熱的の爆発説
ツングース カ事件は巨大隕石の落下と思われたものの、現地にはクレーターも破片もないことから戦後の科学アカデミー隕石委員会やKSEの調査が始まるとすぐに彗星説 が有利となり彗星での爆発のメカニズムが考案されました。1958年の隕石委員会の遠征隊長フロレンスキー(Kirill Florensky) は自然界の宇宙物体の物質が大気中の酸素と反応して爆発した、と述べましたが隕石の専門家達は無視しました。その考えが復活したのは、フロレンスキーの死の直後でした。
アメリカの天文学者ホイップル (F.L. Whipple) の「汚れた雪玉」仮説が発表され(*1)、ソ連宇宙工学創設者の一人Georgy Petrv と Vladimir Stulov は熱爆発の過程を繰り返しシミュレートして、彗星の雪玉の核が爆発しても地上に痕跡を残さないことが判りました。それを引き継いで Kirill Staniukovich と Valery Shalimov は熱爆発の理論を考案しました。飛行する物体の熱爆発には、内部の熱が逃げるよりも充分早く物体内部に熱が流入する強力な熱の流れが必要です。この条件下 では物体は加熱された状態になり、大気中を飛行している間に爆発するのでしょう。
Petrv と Stulov の計算によると、大気中を飛行する物体に伴って発生する弾道衝撃波の約1%だけがその物質の加熱に費やされます。従って通常の密度の宇宙物体は大気中の飛 行の間爆発するほど過熱されることはなく、水の密度の1/100以下の場合にしか当てはまりません。現在知られている彗星核の標準的な密度は 0.3〜0.6くらいでしょう。Petrv と Stulov は天文力学と極超音速学の専門家で天文学者でなかったため、天文学者達はこの理論に猛反発しましたが、Petrv と Stulov は「宇宙の雪片」モデルが「ツングースカ現象の特徴を合理的」に説明すると強調しました。(*2)
特にStaniukovich と Bronshten はたとえそのような「宇宙の雪片」が太陽系内に奇跡的に発生したとしても、太陽の放射線、太陽風や太陽と大きな惑星の潮汐力で極めて迅速に破壊されると主張しました。(*3)
それは数100kmも地球大気を通過して地表10kmの高度に達するはずがなく、100km以上で消散したでしょう。
力学的には彗星説に不利になったものの、事件の前兆現象と爆発後の「明るい夜」を説眼するには彗星のほうが都合よく、彗星説は主にロシアの科学者に支持されることになりました。

(2).彗星の化学的爆発の復活(蒸気爆発)
1970年代アメリカとソ連は真空原子爆弾または高衝撃気化爆弾と 呼ばれる兵器を開発しました。この爆弾は液体燃料を含み、爆発の初期にエーロゾルとして分散させてから追加の爆発で点火するというものです。蒸気雲の爆発 の必要な条件は特別な技術的装置の補助なしで発生させることができます。それならば氷の核を持つ彗星が大気中を飛行している時にも発生しないだろうか、そ う考えた科学者達がいました。
化学者のMaxim Tsynbal は数学者の Vladimir Schnitke と共に彗星核の蒸気雲爆発の理論を開発しました。 (*4)
彼らの説では核は凍ったガス(メタン、アセチレン、シアンなど)から成っていて、最初空気抵抗により細かく砕かれガスの雲となり、そして爆発するというも のです。彼らは当時知られている彗星物質と関係する
デー タを使い、氷の彗星核が地球大気を貫通するチャンスがあるのかの計算もしました。その結果は彗星核が一枚岩の氷でもドライアイスでも速度が 10km/secであったら高度20〜30kmの硬度で崩壊することになりました。彗星核がツングースカ爆発の高度に達するには2〜3km/sec以下の 速度でなければなりません。もしそのような速度で彗星核が地球大気に侵入した場合、核のほとんど完全に蒸発し、蒸気雲をもたらし、大気との摩擦帯電の火花 で爆発します。その爆発での火の玉の温度は約3000℃で、それは可視光線ではなく主として赤外線放射でエネルギーを放射します。これは爆心地に残る生き 残った木々や、植物の火傷の跡を説明するのに好都合です。核爆発であればその火の玉の温度は100万℃であり、爆心地で火傷もない木が生き残るはずがあり ません。

ま た Tsynbal と Schnitke はツングースカ地域で発見された遺伝子突然変異と熱ルミネセンスの異常について蒸気爆発で説明できると考えました。爆発による化合物は電離層まで上昇し、 オゾン層を破壊し、そこに放射能を解放する「孔」を生じさせて、この「孔」を通って高い活性化のある太陽放射の紫外線が地表に達し、局所的に生物の有機組 織体と鉱物に影響を与えたというものです。
しかし、この説では生物や鉱物に一様に影響を与えたでしょうから、異常がツングースカ物体の経路に沿って現れていることを説明できません。

(3).鉄隕石帯電説
ツングースカ物体彗星核説は、高高度で爆発してしまい、鉄隕石は堅 固過ぎて空中爆発しそうもないが、学者達が見逃しているものがあるのではないだろうか、と考えた技術者がいました。Vladimir Solyanik は学者連中は帯電に関して注意を払っていない、それなら自分でやってみようと考えたようです。そして後には科学者達も彼の考えに興味をもつようになりまし た。
鉄隕石は極めて堅固で上層大気から受ける力よりも、ずっと強い力に耐えられることが証明されています。しかし、たとえば1947年に東シベリアに落下したシホテ・アリン鉄隕石が分裂したのは高度60kmでした。この高度でどうやって分裂するのでしょうか。
Solyanik は興味深い事実を指摘しました。シホテ・アリン隕石が電話回線を修理するため電柱に登っていた技術者の上を飛んだ時、彼は電気刺激を感じたというのです。 おそらく隕石が電話回線の上を飛んだ時に電界を発生させ、線路に電流を流したのでしょう。この現象は他の大火球の時も同様な記録があり、それが隕石自体に どのような影響をあたえるのでしょうか。
Solyanik は鉄隕石が大気中を飛行するとき、空気分子は隕石中の電子を叩きだし、隕石はマイナス電荷を失い、プラス電荷を帯びることになると考えました
。 それで飛行する隕石周囲の電界強度は急速に強まり、物質に力学的緊張を作りだし、隕石が地表に近づくとそのプラス電荷は飛行する隕石の下の地面にマイナス 電荷を引き起こし、その領域の電界強度は増加します。その飛行高度が低下するに従い隕石の電荷は増加し、最終的に隕石と地面との間に高出力のアーク放電が 発生して隕石は爆発するというものです。Solyanik の計算によると鉄隕石だけが大気中の飛行を通してこのような強力な爆発を発生させる電荷を得ることができ、石質隕石の物理的構成では必要な電荷を発生できないとのことです。(*5)
それで、隕石の物質は完全に消滅したのでしょうか。
Solyanik はツングースカ物体は完全には分解しなくて、南沼を飛び越えほとんどの質量は爆心地から遠く離れた西方に落下したと、この問題を回避しようとしました。しかし、落下したはずという物質は徹底的に調査したのにもかかわらず見つかっていません。

(4).石質隕石説の復活
1980年代にアメリカの天文学者 Zdenek Sekanina はツングースカ物体彗星説は知られている彗星と矛盾していると推論しました。彼の計算によると、彗星の核であれば実際に爆発が起きたよりもはるかに高い高度で分解したことを裏付けました。(*6)
更にSekanina の計算によればツングースカ物体の軌道はいわゆる小惑星の「アポロ群」の軌道とよく似ていました。従って彼はツングースカ物体の化学爆発モデルを支持せ ず、単純に石質隕石つまり小惑星の破片であったと結論しました。けれども爆発のメカニズムまでは説明できませんでした。

爆 発のメカニズムは1970年代後期から1980年代初期に Sanvel Grigoryan と Vitaly Bronshten によって開発されました。彼らの理論では彗星核と小惑星双方共に好都合なものでした。しかし彼らの計算ではツングースカ物体に密度は1g/cm^3、即ち 氷の彗星核ということになりました。また Sekanina の求めた軌道はかなり不確実で「アポロ群」に似ているとの根拠には使えないと考えていました。
1993年、C.F.Chyba と P.J.Tomas 等及び J.G.Hills と M.P.Goda はツングースカ爆発の規模ならば彗星核ならば高度20km以上で暴発し、鉄隕石なら地表に達しクレーターを作るので高度10km程度で爆発するのは石質隕 石でしかありえない、と主張し大きな反響がありました。(*7,8)

しかし、それで…。「その破片はどこに……?」 

そ れに応えるようにツングースカ100周年の贈り物として、アメリカのサンデア国立研究所の M.B.E.Boslough と D.A.Crawford はツングースカ事件の革新的数学モデルを考案して、スーパー・コンピュータでシミュレーションしました。彼らは爆発の規模を推定しその場所から経路を逆 上って計算するというやり方で、モスクワの物理学者 Vladimir Svettsov の仕事を参考にしていました。彼らのシミュレーションの結果、直径50mの小惑星が15km/secの速度で45度の角度で大気に突入し、8.5kmの高 度で爆発したというものです。この爆発で中心部の温度は24700℃となり破片は総て蒸発したというものです。(*9)
このシミュレーションの一部は2011年12月20日にNHK-BS のコズミックフロント「IMPACT 迫りくる天体衝突」でも紹介されました。 
し かし、Boslough と Crawford の結果はなぎ倒された森林領域の形と構造に完全に言及していません。Fast と Anfinogenov の「ツングースカ・バタフライ」に似た結果になれば、彼らのモデルは更なる議論の対象となるでしょうが、今のところその可能性は少ないでしょう。また彼ら が参考にした 、ツングースカ物体は完全に蒸発したという Svettsov の結論は完全に否定されており、石質の小惑星の完全な気化はありえないでしょう。大気への突入角度45度も目撃証言から矛盾しています。                                             

(5).彗星説の逆襲
ツ ングースカ物体が石質隕石説にやや傾きかけた、と思ったものの、2009年コーネル大学のマイケル・ケリー (M.C.Kelley) 等は彗星説を発表しました。この説の彗星核は中心部に小さな岩石がありその周囲を塵を含んだ氷が覆っているというものです。このモデルでは小さな岩石が爆発の原因となり(
その爆発はC.F.Chyba 等の理論による)、地表に隕石の衝突痕と構成物質の不足を説明でき、そして周囲の氷は爆発前の高度約100kmで水蒸気になり、塵とともに熱圏の下層部に投入されたというものです。

ケ リーによると、スペースシャトルの打ち上げ後に普通は雲が生じない高高度で水蒸気が氷結を起こすことによって夜光雲が発生することが確認されてお り、更にスーペースシャトルの打ち上げから3日後に南極大陸でレーザー・レーダーの観測で異常に強い高々度の鉄原子層を発見しました。これはシャトルの主 エンジンから融解したものと考えられています。シャトルの主エンジンからの水蒸気プルームがわずか数日で南西方向へ8000kmも漂って行ったというのは、 それまでの低温度圏のグローバル循環のモデルでは説明できなことでした。中緯度で、夜光雲が発生する75〜90kmの高度の東西風は平均すると0〜20m/s とされていますので、水蒸気の別の輸送手段が必要ということです。
ラーセン (M.F.Larsen) は観測用ロケットから放出された化学トレサーの運動を使って熱圏下層 (95〜115km) の風速は最新のグローバル循環モデルで予測されるよりもかなり大きいことを示しました。
ケリー等によるとこの高度の大きな風速は2次元乱流により説明でき、30〜100m/s の東西風が発達し、これによりスースシャトルの主エンジンから放出された水蒸気と、ツングースカ物体のからの水蒸気が短時間で離れたところまで輸送されたというのです。(*10)

2次元乱流とは水平方向の運動スケールに比べ鉛直方向の運動スケールが極めて小さいという特徴があります。波数空間内ではエネルギーの大きな波数から小さ な波数へと輸送されて行き、3次元乱流では渦は分裂して小さくなっていくのに対し、2次元乱流では渦が衝突合併して大きな渦へと成長していくことを意味し ます。このことは惑星大気の大規模運動を理解するために重要なこととされています。

イギリスの気象学者ホイップルは「1908年6月30日午後10時過ぎ(GMT)、突然北北西に巻層雲状の雲が現れ、太陽光を反射したのだろう昼間のように明るくなった」と記しました。(*11)
ツングースカ爆発から22時間で5000km離れたイギリス上空まで水蒸気を輸送するには60〜70m/s の風速が必要ですが、これはケリーの説で説明できます。

*1   On phenomena related to the Great Siberian meteor  
           Whipple,F.J.W   Quat.J. of the Royal Meteorological Society 60,1934
*2   Movement of large bolides in planetary atmospheresl  
           Petrov,G.I & Stulov,V.P   Kosmichskiye Issledovaniya 1975
*3  On dynamics of disruption of big meteoroids

        Bronshten,V.A  Cosmic Res.235 1985
*4   A gas-air model of the Tunguska comet explosion
          Tsynbal,M.N & Shnitke,V.E   Cosmic Matter and the Earth,1986
*5   The Tunguska catastrophe of 1908 in the light of the electric theory of meteor phenomen
          Solyanik,V.F   Interaction of Meteoritic Matter with the Earth, 1980
*6   The Tungsuska event: no cometary signature in evidence
          Sekanina,Zd   Astrn.Journal, 1983
*7   The 1908 Tunguska explosion: atmospheric disruption of a stony asteroid
          Chyba,C.F.,Tomas,P.J. & Zahnle,K.J   Nature 361,1993
*8   The fragmentaton of small asteroids in the atmosphere 
          Hills,J.G. & Goda,M.P   Astron.J. 105, 1993

*9   Low-altitude airbursts and the impact threat
          Boslough,M.B.E. & Crawford,D.A    Proceedings of the 2007 Hypervelocity Impact Symposium-International Journal of           Impact Engineering, 2007

*10   Two-dimensional turbulence, space shuttle plume tranport in the thermosphere, and a possible relation to the Great             Siberian Impact Event 
          Kelley,M.C.,Seyler,C.e,.Larsen,M.F   Geophysical Research Letters,Vol.36, 2009

*11   On phenomena related to the Great Siberian Meteor
          Whipple,.F.J.W   Q.J.R.Meteorol, Soc,.60,1934

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