隕石亭雉子星

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           私の火星人                                              



今 年は6万年振りの火星大接近だった。前回の大接近(もちろん6万年前ではありません!)のときは25cmシュミット・カセグレン望遠鏡を衝動買いをした。 その前の大接近のときは横浜で6cm屈折望遠鏡を覗いていた。あのときの6cmで見た火星は今25cmで見る像よりも鮮明だったのではないだろうか、など と歳のせいか昔を美化してしまう。
天文ファンなら誰でも火星にまつわる思い出がいくつもあるのだろうし、夢の中で火星人の姿を想像したものだと思う。
ツングースカ異変は火星かどこかの星の宇宙船の爆発かもしれないと半分冗談で思っていたころ、篠田先生とシベリア日食のついでに宇宙船の指令船は爆発前に 動力船から切り離され、いまもタイガの中に埋もれているはずだから探してこようと話したものだ。

いまでは知能の高い生物が火星に存在していると思っている人はごくわずかだろうが、かつてはかなり多くの人が、もしかしたらいるのではないかと思ってい た。人間が火星人を現実のものとして思い込み恐怖に震え上がった有名な事件があったのは1938年10月30日。アメリカ・ニューヨークのラジオ局WABCからCBSのネットワークを通じ全米に放送されたH.G.ウエルズ原作、オーソン・ウエルズ脚色・台本 の『宇宙戦争』が少なくとも100万人以上の聴取者を大混乱に陥れた。
1938年といえば第二次世界大戦が始まりかけていたころである。ドイツや日本にこの手で撹乱されては大変という政府の心配もあったのだろう、CBSはプ リンストン大学と共同でこの大混乱の大掛りな調査を行った。
(火星人の宇宙船が着陸したのがニュージャージー州プリンストン郊外です……)

調査結果によるとこの放送を聞いた 人の行動パターンは4つに分けられるという。
1:放送の出来具合に感心しながらも驚かなかった……23%
2:驚いたが、本当のことかどうか確認した……18%
3:驚き、確認に失敗し混乱に陥った……27%
4:驚き一目散に逃げ出した……32%

放送を聞いても驚かなかった人達は『宇宙戦争』原作を読んでいたか、新聞のラジオ欄などでこの時間にそのドラマが放送されることを知っていた。あるいはあ まりに事件の展開が早すぎてすぐにフィクションだと思った。
2番目のグループはラジオのダイヤルを他局に回して異常がないことを確かめたり、新聞のラジオ欄で『宇宙戦争』のタイトルをみて安心した。また警察や現場 近くの知人に電話して何の異常もないことを確認してドラマであることに安心した。
3番目のグループは2番目のグループと最初は同じ行動をとりながら、新聞が見つからず、他局にダイヤルを回したら賛美歌が流れていていよいよ人類はおしま いだと勘違いした。なにを聞き違えたのかラジオで「ルーズベルト大統領の決別の挨拶を聞いた」と思ってしまった人など。
また警察に電話をしたのにつながらず慌ててしまったとか……なにしろ警察には「どこへ逃げたらいいでしょう」「窓は閉めたほうがいいでしょうか」「防毒マ スクの予備はありませんか」という電話が殺到したという。警察に電話がつながらないのに「大変だ火星人が攻めてきた、地下室に入れてください」などと人が 飛び込んできたらもうアウトである。
4番目のグループは火星人来襲ときいてほんとかどうか確認もせず一目散に逃げ出したり、知人からの電話で「火星人が攻めてきたわよ!、ラジオを付けてごら んなさい」ということでスイッチを入れた連中はこれがドラマとは思わず逃げ出した。
ネット局の大半は放送の途中で大騒動がもちあがったことに気付き、ドラマの後半ではたびたび局名アナウンスを入れたりドラマであることを流したが、本当に 火星人が攻めてきたと思い込んだ人達はラジオを放り出して逃げ出したのでまったく役に立たなかったという。

この事件の教訓はいろいろあるが私が強く感ずるのは、本当に情報が必要な人間には情報が届かな いということがよくあるということだ。良い例えを思いつかないが、新聞で一部の人のモラル不足を指摘して、なぜこういうことはいけない事なのか懇切丁寧に説 明したとしても、そういう人間はそういう記事はもちろん新聞を読んではいないのではないか。また、いくら戦争や核兵器の悲惨さを伝えるテレビ番組があった としても戦争好きな政治家や軍人は見ないのだろう。
……と、わが身を思うとき、今私に必要な情報は受け取っていないのではないだろうか、あるいは自分で無意識に拒否してしまっているのではないだろうか、と 不安になる。私の想像外の火星人に相当する存在が現れたらちゃんと情報を集め正しい判断を下せるだろうか?

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