隕石亭雉子星>星を観ること

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           星を観ること                                              



科学者という職業はいつ頃生まれたのだろうか。ガリレオやニュートンはそもそも職業として科学者を選んだというより、世の中の事象に疑問を感じ、それの本 質を探究したい、追及したいということから結果的に科学者といわれるようになったのだろうと思う。生活費に困らず研究できる人は限られているので、ガリレ オなどもパトロンのために星占いをしていたという。天王星を発見したウイリアム・ハーシェルは、発見当時の職業は公会堂のオルガンひきだったらしい。
比較的最近の日本人でも多くの彗星や小惑星を発見し、その軌道の解析で有名な関勉氏は、クラシック・ギターの先生だったし。世界的な天体軌道計算の権威中 野主一氏はドラッグストアのご主人である。天文学だけに限っても本職の傍ら時間をやりくりして業績を上げている方が大勢いる。

その中でも忘れてはならない御一人が、故・草場修氏だろう(すでに忘れられているような気がするが)。この人のことを知ったの は中学2年生の冬だった。この頃には生存していてもかなりの高齢になっていたのではないだろうか。
この人の職業というと、本当のルンペン(ホームレス、路上 生活者…)だったそうだ。後年のことは判らないが、注目された当時はルンペンだったという。どの辺を根城にしていたのかも知らないが、たぶん関西方面だったのではないだろうか。それは京都大学教授だった天文学者・山本一清博士が注目したからだが…。

1930年代、草場氏は橋の下や、ゴミ箱のかげ、土管の中から夜毎星を眺め、見える星を記録して行き、粗末な道具で星と星との位 置関係を正確に描いていました。氏の作業は「星図」を作っていることになります。「星図」は恒星などの相互位置と明るさの目安を与えて、ある星をたやすく 見出すためにあります。星座に興味を持つと星座早見盤を使って星を見つけ、更に詳しく知りたいと思い、天文の趣味にのめり込む人は「星図」を購入すること になります。星座の星を調べるほか超新星、彗星、小惑星などいつもはその位置にない天体の捜索には欠かせないものですが、1930年 代に日本で出版された星図はなかったし、外国の星図はアマチュア天文家が入手できるはずもなかった。

「星を観測している、ルンペン」がいる、ということが山本博士の知ることになり、草場氏が描いた星図を見た博士は「見 事だ、このような精密な肉眼星図は世界にない!」と激賞されたといいます。草場氏は山本博士の指導の下に肉眼星図を完成させ、「草場簡易星図」として出版 しました。その出版は天文界で大きな話題となり、当時の新聞などに「ルンペン天文学者、星図を完成」と記事がでたそうだ。

草場もちろん実物は見ていな いが、昭和16年(1940年)5月に恒星社から発行された野尻抱影氏の「星」の巻末に広告があるのを見つけた。(左の写真)

その後、昭和21年にも神田茂博士の校訂で「新撰全天恒星図」が出版されたようだ。
「草場簡易星図」は国立国会図書館 にも無いようだ、「新撰全天恒星図」はあるがコピーサービスはしていなく、訪問してマイクロフィルムでしか見るしかないようだ。

路上生活者の草場氏が星を見つめた動機はいったいなんだろう。星が好きで興味を持っていたからは間違いないが、いつの頃から興味を持つようになったのだろう。路上生活者になってからなのだろうか、星が好きだったから路上生活者になった…訳はないだろう。
星が好きでも一人で1000個以上の恒星の位置関係を測定し記録するなど途方もないことだ。日本に信頼できる星図がなかったから自分で作ろうと思ったのだ ろうか。ただ単に自分で星図と作ることが喜びだったのだろうか。金儲けや、名声を得ることであればこんな回りくどい道を選ばなかっただろうし。

地位も名誉も財産も身寄りもない一青年が星空を見上げ、星を記録するとき邪念はなく。夜明けに観測を終えると、真理に 近づいているという喜びが僅かにこみ上げてくるのだろう。

自分はこんな純粋な気持ちで星を見たことがあっただろうか?
流星の肉眼観測をしていた頃は、流星の出現数が多いと記録することに精一杯で邪念はあまり湧かないのだが、あまりに出現しないと眼は空に向いていても観測とは関係のない余計な想 いが思考の大部分を占めてしまい、結局暗い流星は見逃していただろう……悪循環である。普段の生活で雑情報が多すぎるのだ。
では草場氏と同じ環境であったら観測するだろうか、たぶん草場氏と同じような年齢だったら自分の置かれている境遇を他人のせいにして拗ねているだけで、星 空を見上げても星からは何も受け取れなかっただろう。
やはり名を残す人は違う、と凡人は想う。

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