隕石亭雉子星>蝕ということ

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           蝕ということ                                              



天文現象で日食・月食と表現されるが本来の「しょく」の字は蝕の本字で、蝕の「虫」の上に「ノ」と「ー」がつく字だろう。残念ながら私のパソコンではこの 文字が出て こないので、日食・月食の「食」は本当は「蝕」が正しいということにする。日蝕を日食と書いてしまっては、天文現象なのか食品会社なのか見分けがつかな い。しかし今ではほぼ100%天文の現象も日蝕ではなく、日食と表記されている。私が持っている昭和16年(1941年)発刊の天文書でも「日食」となっ ているのでかなり前からこれが当たり前のことになったのだろう。この辺の詳しい経緯が判ったら面白いと思う。「蝕」は食い込む、とか欠けるという意味だか ら太陽や月がだんだんと欠けてゆく姿を現すのにはぴったりだ。

「日 蝕・月蝕」が本来の使い方といっても世の中の流れに逆らわないで、私も「日食・月食」と使おう。「食」の天文現象は日食・月食だけでなく惑星食、恒星食、 小惑星食など月がいろんな星を隠す現象(こういうのを掩蔽現象とも言う)があるし、惑星や小惑星が恒星を隠す「星食」もある。月の縁が恒星をぎりぎり隠す かどうかという条件の観測地からは「接食」となり、月の縁の凹凸で恒星が消えたり現れたりして月の縁を通過して行く印象深い光景となるそうだ。小惑星が恒 星を隠すときに南北に離れた何箇所かで恒星の潜入時刻、出現時刻を測定することにより小惑星の形状も推測できる。 また月や惑星・小惑星の運動を正確に求めるためには先ずその位置を正確に求めなければならないが、正確な位置が判っている恒星との接触でそれが可能にな る。これらは専門家だけでなく高度な技術と機材を持つアマチュアも活躍している。

私 は、というとかなり昔に、中越地方から見てギリギリ月の縁を恒星が通過する、「接食」の予報が前年の暮れに発刊された天文年鑑に載っていた。その年に起き る接食で一番明るい恒星によるもので、これは観測しなければならないだろうと思い、詳しいデーターを海上保安庁水路部編暦課に求めるとすぐにコンピュータ からプリントアウトされた予報データーがドサッと届いた。そのデーターを基に5万分の1の地形図に接食となる限界線 を書き込むと、自宅から1km以内の所を限界線が通るということが分かった。本当に限界線上で見ると月の縁ギリギリで星が通過してゆくか、あるいは完全に 隠れる時間があるか、それとも月の縁をかなり離れて通過してゆくのか、予報がどのくらい信頼できるのか確認しようと張り切った。
自宅付近での予報時刻は午前1時過ぎ。魚野川近くの限界線上で観測することにして、6cm屈折望遠鏡に正確な時刻を知るためにJJYを受信できる短波ラジ オを用意して予報2時間前に観測場所へ。月齢18の月が澄んだ秋空にかかり絶好の観測条件となった、と思っていたのだが……霧が……。この時期夜半過ぎに濃 霧が発生するのはよくあることなのだ……。結局、海上保安庁水路部へは霧で観測できませんでしたと報告した。1979年10月10日のことで、これで私の接食観測は挫折した。

見ていちばん興奮する「食」はなんと言っても皆既日食で、皆既中にだけ 見えるコロナの美しさは例えようがなく、先人が「人間が見ることの出来るもっとも美しいもの」とか「天使の翼はきっとこういうものだとしか言いようがな い」と記したが、まさにその通りだと思う。

皆既日食の次に美しい食はなんといっても金星食だと思う。この2つは肉眼で見ても美しい、と言うより肉眼で見るのがい ちばん美しいのかもしれない。1989年12月2日の金星食は最も印象深い天文現象のひとつになっている。その日は土曜日であったが勤務日で、就業時間の終了時には金星はもう月に隠れているので早退することにした。16時に退社して空を見ると雲が早い速度出移動し、雲間から月が白く見え、はやくも金星が月の東側に寄り添い、これほど金星と月が接近 しているのは初めて見た。すぐにでも食が始まりそうな接近ぶりだった。焦って帰宅すると空は快晴になっていたが、翌日の町長選挙投票日を控え町中は騒然としていた。おまけに近所で井戸掘りをしていてボーリングが家を揺らし、ドーム内で望遠鏡を見るどころでは ない。幸いにして17時で井戸掘りは止めてくれたが、選挙運動はいよいよ絶叫調となった。
ドームに入りスリットを開けると息を飲むような光景だった。うすい紫色がかった
水色の夕暮れの西空に寄り添う金星と三日月、これは一瞬の光景のようだった、時間が凍りついたように、街の喧騒のなかに非現 実的と思える美しさだった。
17時8分ちょうどあたりに月の欠けている側から四日月の形をした金星が潜入を開始し、1分50秒ほどで姿を消した。
17時57分、三日月の下端の欠け際から現れた薄青緑の光を誰もが月の雫と思った。

土星美しいよりも自然界の驚異を感じさせるのは土星食だろう。そう珍しい現象ではないのだが、現象が起きる時刻が昼間だっ たりであまりいい条件にならないことが多いように思える。
2001年10月8日の土星食は自宅付近から見て、土星の輪と月による接食予報があった。3時51分過ぎに土星は最も月に接近したが、接触したようには見 えなかった。最接近時の土星の位置は、月の輝いているのっぺりした場所であったが土星が西へ進むにつれ月のクレーターの陰影がはっきりする位置に来た。荒 涼とした月 面のクレーターに懸かるリングを大きく開いた土星……不思議な光景だった。


月面と土星
2001年10月8日04時00分30秒
16cm反射・NikonF




 

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