隕石亭雉子星

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           聴きたい…流星の音                                              



流星から音が聞こえることがあると いう。それも流星の姿と同時に聞こえるのだという。
たいていの人はここで、エッと思うだろう。夏祭りの花火でさえ大きく開いてから、暫くしてドンという音がきこえてくるではないか、と。科学者ならなおのこ と、流星が出現する高度100kmからどうやって光と同時に音が伝わるのか、錯覚に決まっている。ハレー彗星で有名なエドモンド・ハレー、ツングースカの 調査をして古典的名著ともいえる論文を書いたロシアの天文学者クリノフ。こういう有名で影響力のある科学者に流星が見えた瞬間に音が聞こえた、などという のは科学的な研究に値しない、と結論したために「流星音」の研究はタブーになった。

けれど流星の親玉ともいえる隕石 (正確な表現ではありません!!)の落下時には大勢の人が音を聞いている。隕石が地上近くまで来て作り出す衝撃波によるドカンとかゴロゴロというもののほ かに、なにか「音」が聞こえたので空を見上げたら隕石落下の火球が見えたという報告は多い。また家の中にいて異常な音が聞こえたので外に出て空を見上げた ら大きな火球がとんでいた、というように錯覚と片付けられない事例もある。

今までの生涯で一度も流れ星を見た ことが無い、という人もいる。こういう人が初めて明るい流れ星を見たら音が聞こえたような錯覚をするかもしれない。しかし流星観測を趣味としている多くの 観測者も流星出現時に何か「音」を聞いている。1981年の流星会議でのアンケートでは約20%の人が流星出現時に「音」を聞いていることが明らかになっ た。
流星の和名のひとつ「天狗星」は音を発するものをいうらしい。そうすると日本でもかなり昔から流星音は知られていたことになる。
流星からの音とはいったいどんなものだろう、聞いてみたいのだが一度として流星の出現時に「音」が聞こえたことは無い。私は中学3年生から流星観測を始め たのだが今まで聞こえ
たことがないというのは、そのための能力が無いか退化してしまったのかもしれない。非常に残念なことである。だが希望があった、オーストラリアのケイ博士 (Colin.S.L.Keay)が科学的に流星音を扱った最初の論文を発表した(1980年)。これによると、流星は電磁波を放射し、それを人間が 「音」として認識しているらしいという。電磁波ならばラジオで聞けばいい。その周波数はVLF(超長波)がもっとも有力だという。……しかし、VLF受信 機の回路はいったいどんなものになるだろう。中波や短波受信機はいくつも作ったが、超長波となると見当もつかなかった。けれどこれをやるしかないと思っ た。
流星から音が聞こえるのは、流星がVLF(超長波)を放射し、それを「音」として認識するらしい。それではVLF受信機を買おうと思ったが市販されていな い。ソニーの受注生産品があるが650,000円というすごい値段。どう考えても買えるものではない。
アメリカの天文誌 Sky & Telescope 1985年12月号にオーデォ・アンプの入力端子にワイヤーアンテナを接続してMeteor Soundsを聴くという記事が載っていた。つまりオーデォ・アンプは人間の可聴域の20〜20,000Hzの音声周波数を増幅する。それはELFから VLFに相当する電磁波になる。早速やってみたが、ブーンという交流からのハム音が入るし、ラジオかテレビか分からない音声が混信する。これでは使い物に ならないとすぐに諦めた。この記事を書いた人も可能性を指摘しただけで実際に流星からの「音」は受信できなかったのではないだろうか。
ちゃんとした受信機でないとだめじゃないかと考え、VLF受信機はとても買えないが、LF(長波)が受信できるものなら数社から市販されていたので、ソ ニー製のICF-PRO70という受信機を買った。これは150Hzから108MHzまで受信できるので、150Hzなら火球からの放射電磁波が受信でき るのではないかと考えた。

1989年8月から1991年9月 まで眼視観測をしながら150Hzを受信したが流星出現時に異常音は聞こえなかった。観測時間10,725分、観測流星数553個であった。この結果から LFでの流星放射電波の受信は非常に難しいと感じた。
やっぱりVLFだが、自作するしかない。VLFの受信回路はどのようにすればいいのか全く分からなかったのだが、オーディオ・アンプを利用するという記事 は参考になった。オーディオ・アンプのように広い周波数を対象にすると余計な信号まで増幅してしまい肝心の流星からの電波が埋もれてしまうので、フィルタ で増幅する周波数を絞り込めばいいのではないだろうかと考えた。目的とする周波数を考えるとELF・VLF電波で強力なものをまず除外する必要がある。交 流のハム音である50Hzとその高調波の300Hzくらいまで、オメガなどの無線航行用に9kHz以上には強力な電波が出ている(オメガは1997年に廃 止)。これらを除外するためにバンドパス・フィルタで0.5〜7.5kHzの信号を通過させ、それから増幅すればVLF受信機になる。ここまで詰めると回 路図が書ける。

低雑音のOPアンプを2個使い、試作の後1号機を作り上げた。1991年10月だった。その半年後、Sky & Telescope誌に載っていた受信機とアンテナを参考にほぼ同じものを製作した。これはG.J.Drobnock氏というアマチュア天文家が製作した もので受信機はトランジスタ2個のシンプルなものであったが、この受信機は耳で聞くためのものでなくペンレコーダで記録させるものだった。私はペンレコー ダを持っていなく、とにかく自分の耳で聴きたいので更にトランジスタ2個を加えてヘッド・フォンで聴けるようにして、これを2号機とした。
Drobnock氏の製作した受信機の考え方は基本的に自分が作った受信機と同じだったので大きな自信となった。
Drobnock氏に手紙を出して観測のテクニックのアドバイスを求めるとともに、私の受信機のことなどを知らせた。氏からはすぐに返事があり、いろんな 雑誌に載ったVLF受信機の記事のコピーも同封してあった。VLF電磁波はホイッスラー空電、潜水艦の通信、またミサイルの打上げ時にも発生するが、驚く ことにアメリカ人はこれらの電波を受信するのが趣味という人が多くいるそうだ。それで趣味のエレクトロニクス関係の雑誌にはVLF受信機の製作記事がとき どき載るのだという。同封してあった中にホイッスラー空電用の受信機があり、これはそのまま流星電波の受信用に使えそうだったのでこれも製作し3号機とし た。

1991年10月から自作した受信 機で観測を始めた。
11月3日21時8分、北天の「きりん座」に光度1等の中速の流星が出現した。その瞬間ヘッド・フォンから「ザー」という音が聞こえた。この流星は飛んだ 跡に「痕」を1秒間くらい残し、その間中音がしていたような気がしたが、ほんとはもっと短い時間だったのかもしれない。とにかく流星の出現時になにかの信 号を捕らえたのだ。

1992年5月6日20時28分、 北斗七星の柄の部分から流星が出現し、「りょうけん座」を通り「うしかい座」に達した長い経路で速いものであった。経路の途中で「バーン」という音が聞こ えた。

1994年末までに観測夜数 120、観測時間12,730分、観測流星数1,261でたった2回、それらしきものを捕らえたにすぎない。こんなにも流星電波は捕らえにくいのだろう か。もしかしたら聞き逃している可能性もある。火球クラスの流星であれば継続時間も経路も長く、出現と同時に耳にも神経を集めることもできるが大多数の継 続時間の短い流星だと受信音に注意をするまもなく消えてしまい目のほうだけに神経が集中してしまったことがあったのではないだろうか。
流星電波が受信しにくい理由を考えてみると。

1.そもそも大部分の流星はVLF電磁波を放射していないか、微弱で受信できない可能性あるのではないだろうか、 流星の発光高度        は高く隕石のように低高 度まで達しないと充分な強度にならないかもしれない。
2.さまざまな外部雑音に埋もれてしまう。
   工業製品からはさまざまなノイズが出ている。、家電製品から出たノイズは電灯線を通り空中に放射されることもあ るし、電灯線を  通 して受信機に入り込む こともあるだろう。また自然界にもVLFが存在している。
3.受信していても判らない
  受信波形をオシロ・スコープで観察してみると、1/1000秒程度の長さのパルスでは音と認識できない。
  受信機の特性か私の耳の問題か?どのくらいの長さの信号が音と認識できるのだろうか。
  流星からのVLFが短いとしたら受信不可能となる。
4.電離層の影響
  流星によるVLF放射があったとしても電離層よりも高高度で発生したらそこで反射・吸収され地上まで伝わらない  かもしれない。       電離層の中でVLF に関係あるのはD層でこの高度は60〜90kmといわれるが、この層の下部まで突き抜けてきた流星が放射した       ら地上まで伝わるのかもしれない。隕石の 発光高度はこの位かそれよりも低高  度のことが多くで、流星に比べ大きな質量は大       出力VLFが期待でき、受信しやすいのかもしれない。

聞き逃しているのなら受信音を録音 して後から聴きなおしてみればいいかとも考え観測の半分以上は受信音を録音していたのだが、流星の出現時の頭出しを正確にする良い方法が判らず録音テープ は無駄になった。流星の映像と受信音の同時録画・録音をしなければ流星からの電波による受信音かどうか判断できないと結論するしかなかった。
II (イメージ・インテシファイヤー)とビデオ・カメラを組み合わせのTV観測に受信音を同時録音するのがいちばんいい方法だった。が、IIは非常に高価 であるのでなかなか決心がつかなかった。しし座流星群が話題になり始めた頃WAT−100Nという超高感度のビデオカメラと明るいレンズを購入したがほと んど観測に使わなかった。テープを後から見直すと
いう作業が面倒なのだ。そこで流星電波の受信計画は挫折してしまった。

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